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P72 問71 (第3章 数列)

問72

 𝑎𝑛=(1+1𝑛)𝑛𝑏𝑛=(1+1𝑛)𝑛+1 で,[𝑎𝑛,𝑏𝑛]は数𝑒を定義する縮小区間の集合であることを証明せよ.

 本問題は数列 [𝑎𝑛,𝑏𝑛] が自然対数の底 𝑒 を含む縮小区間の集合であることを証明したいので,縮小区間の定義を確認すれば,おのずと何をすればよいか明らかになります.

縮小区間

 それぞれの区間がその前の区間に含まれ,そして,lim𝑛(𝑎𝑛𝑏𝑛)=0であるような区間[𝑎𝑛,𝑏𝑛],𝑛=1,2,3,を縮小区間という.

 これだけでは何を示せばよいか見えづらいので,具体的に表現します.すなわち,以下の条件を満たすことを示せばよいです.

  1. 𝑛1 に対して、𝑎𝑛<𝑏𝑛 である.
  2. 数列 𝑎𝑛 は単調増加である(𝑎𝑛<𝑎𝑛+1).
  3. 数列 𝑏𝑛 は単調減少である(𝑏𝑛>𝑏𝑛+1).
  4. 区間の長さが 0 に収束する(lim𝑛(𝑏𝑛𝑎𝑛)=0).

 数𝑒については𝑎𝑛,𝑏𝑛の極限の話になります.区間の長さが0に収束することから,log(𝑎𝑛)の極限を計算すればよいと見通しが立ちます.

 したがって,大きな方針として縮小区間を示し,その後に数𝑒であることを示します.

 (式変形も記述したので,解答が少し長くなっています.)

 [𝑎𝑛,𝑏𝑛]が縮小区間の集合であることを示し,その後数𝑒を定義するものであることを示す.

  1. 𝑛1 に対して、𝑎𝑛<𝑏𝑛 である .

     各𝑛1に対し,𝑏𝑛𝑎𝑛>0であることを示せばよい.𝑏𝑛𝑎𝑛=(1+1𝑛)𝑛1𝑛𝑛1だから,𝑏𝑛𝑎𝑛>0である. 極限でもない限り,等号は成立しない.

  2. 数列 𝑎𝑛 は単調増加である.

     数列 𝑎𝑛=(1+1𝑛)𝑛 が単調増加である、すなわち 𝑎𝑛<𝑎𝑛+1 であることを示します。 これには,一般化された相加相乗平均の不等式を利用します。

    一般化された相加相乗平均の不等式

     𝑁 個の非負の実数 𝑥1,𝑥2,,𝑥𝑁 が与えられたとき、それらの相加平均 (Arithmetic Mean, AM) は相乗平均 (Geometric Mean, GM) 以上である。 すなわち、

    𝑥1+𝑥2++𝑥𝑁𝑁𝑁𝑥1𝑥2𝑥𝑁

    等号が成立するのは、𝑥1=𝑥2==𝑥𝑁 のときに限る。

     𝑛+1 個の正の数1,(1+1𝑛),(1+1𝑛),,(1+1𝑛)について考えます。これらの相加平均𝐴𝑀

    𝐴𝑀=1+𝑛(1+1𝑛)𝑛+1=1+𝑛+1𝑛+1=𝑛+2𝑛+1=(1+1𝑛+1)=𝑛+1𝑎𝑛+1

    相乗平均𝐺𝑀

    𝐺𝑀=𝑛+11(1+1𝑛)𝑛=𝑛+1𝑎𝑛

    相加相乗平均の不等式により,𝐴𝑀>𝐺𝑀である,すなわち

    𝑛+1𝑎𝑛+1>𝑛+1𝑎𝑛.

    ここで,𝑛>1なので11+1𝑛であるため,等号は成立しない.両辺𝑛+1乗すれば, 𝑎𝑛+1>𝑎𝑛となり,数列𝑎𝑛が単調増加であることが示せました.

  3. 数列 𝑏𝑛 は単調減少である.

     数列 𝑏𝑛=(1+1𝑛)𝑛+1 が単調減少である、すなわち 𝑏𝑛>𝑏𝑛+1 であることを示したい.だが,これを直接示すのは複雑なので,代わりに 𝑏𝑛𝑏𝑛+1>1 を証明します.このとき,二項定理を使った不等式 (1+𝑥)𝑛>1+𝑛𝑥 を使います.

    𝑏𝑛𝑏𝑛+1=(1+1𝑛)𝑛+1(1+1𝑛+1)𝑛+2=((𝑛+1)𝑛+1𝑛𝑛+1)((𝑛+1)𝑛+2(𝑛+2)𝑛+2)=(𝑛+1)2𝑛+3𝑛𝑛+1(𝑛+2)𝑛+2=(𝑛+1)𝑛+1(𝑛+1)𝑛+2𝑛𝑛+1(𝑛+2)𝑛+1(𝑛+2)=((𝑛+1)𝑛+1𝑛𝑛+1)((𝑛+1)𝑛+1(𝑛+2)𝑛+1)(𝑛+1𝑛+2)=(𝑛+1𝑛)𝑛+1(𝑛+1𝑛+2)𝑛+1(𝑛+1𝑛+2)=((𝑛+1)2𝑛(𝑛+2))𝑛+1(𝑛+1𝑛+2)

    ここで、式の中の (𝑛+1)2𝑛(𝑛+2) の部分に注目します。

    (𝑛+1)2𝑛(𝑛+2)=𝑛2+2𝑛+1𝑛2+2𝑛=1+1𝑛2+2𝑛

    なので,これを元の式に代入すると

    𝑏𝑛𝑏𝑛+1=(1+1𝑛2+2𝑛)𝑛+1(𝑛+1𝑛+2).

    二項定理を使った不等式でこれを評価する.

    (1+1𝑛2+2𝑛)𝑛+1>1+(𝑛+1)(1𝑛2+2𝑛)=1+𝑛+1𝑛(𝑛+2)

    だから,

    𝑏𝑛𝑏𝑛+1>(1+𝑛+1𝑛(𝑛+2))(𝑛+1𝑛+2)=(𝑛(𝑛+2)+(𝑛+1)𝑛(𝑛+2))(𝑛+1𝑛+2)=(𝑛2+2𝑛+𝑛+1𝑛2+2𝑛)(𝑛+1𝑛+2)=(𝑛2+3𝑛+1𝑛2+2𝑛)(𝑛+1𝑛+2)

    分子: (𝑛2+3𝑛+1)(𝑛+1)=𝑛3+𝑛2+3𝑛2+3𝑛+𝑛+1=𝑛3+4𝑛2+4𝑛+1
    分母: (𝑛2+2𝑛)(𝑛+2)=𝑛3+2𝑛2+2𝑛2+4𝑛=𝑛3+4𝑛2+4𝑛.

    よって分子>分母だから,

    𝑏𝑛𝑏𝑛+1>𝑛3+4𝑛2+4𝑛+1𝑛3+4𝑛2+4𝑛>1

    したがって,𝑏𝑛𝑏𝑛+1>1 が示され,数列 𝑏𝑛 は単調減少であることが証明されました。

  4. 区間の長さが 0 に収束する.

     lim𝑛𝑏𝑛=lim𝑛(1+1𝑛)𝑛+1=lim𝑛(1+1𝑛)𝑛(1+1𝑛)=𝑒1=𝑒 である.したがって,lim𝑛(𝑏𝑛𝑎𝑛)=lim𝑛𝑏𝑛lim𝑛𝑎𝑛=𝑒𝑒=0.区間の長さが 0 に収束しました.

  5. 𝑒 を定義する縮小区間の集合であること.

     縮小区間に対してただ1つの実数が対応し,その実数は lim𝑛𝑎𝑛(=lim𝑛𝑏𝑛)=𝑒 なので,結論を示すことができました.