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カッシーニの恒等式を証明する.

 カッシーニの恒等式は、フィボナッチ数列に関する美しい関係式です.この記事では、この恒等式を行列を用いた方法で証明します.

フィボナッチ数列

フィボナッチ数列𝐹𝑛の定義を確認しておきます.フィボナッチ数列は、次の漸化式で定義されます.

𝐹0=0,𝐹1=1,𝐹𝑛=𝐹𝑛1+𝐹𝑛2(𝑛2).

カッシーニの恒等式

 フィボナッチ数列𝐹𝑛において,次に示す等式が成り立つ.

𝐹𝑛+1𝐹𝑛1𝐹2𝑛=(1)𝑛

 フィボナッチ数列に関する重要な恒等式の一つです。これは、フィボナッチ数列の隣接する3項間の関係を示すもので、特に数列の項が連続している場合に成立します。

 この等式が主張するところは,フィボナッチ数列のある項 𝐹𝑛 において,その前後の項 𝐹𝑛1,𝐹𝑛+1 との関係が 11 であるということです.つまり,フィボナッチ数列の項がどのように連動しているかを示し、その規則性の1つを明らかにしています.よくこの等式を発見したものですね.

𝑀=(1110)

として,以下の等式を数学的帰納法で証明します.

𝑀𝑛=(𝐹𝑛+1𝐹𝑛𝐹𝑛𝐹𝑛1)

この両辺の行列式を計算すると,カッシーニの恒等式が得られます.

𝑀

(𝐹𝑛+2𝐹𝑛+1)=𝑀(𝐹𝑛+1𝐹𝑛)

を満たします.

 また 𝑀𝑛,𝑛=1,2,3, を計算すると,

𝑀1=(𝐹2𝐹1𝐹1𝐹0)=(1110)𝑀2=(𝐹3𝐹2𝐹2𝐹1)=(2111)...

となります.行列 𝑀 はフィボナッチ数列の漸化式を生成するので,言われてみれば納得できます.

 𝑀=(1110)として,以下の等式を数学的帰納法で証明し,その両辺の行列式をとることで,カッシーニの恒等式が得られることを示す.

𝑀𝑛=(𝐹𝑛+1𝐹𝑛𝐹𝑛𝐹𝑛1)

𝑛=1 のとき

𝑀1=(𝐹2𝐹1𝐹1𝐹0)=(1110)

だから,𝑛=1 のときは成り立つ.

𝑛=𝑘 のとき 以下が成り立つと仮定する.

𝑀𝑘=(𝐹𝑘+1𝐹𝑘𝐹𝑘𝐹𝑘1).

 このとき,𝑀𝑘+1=𝑀𝑘𝑀 だから,

𝑀𝑘+1=(𝐹𝑘+1𝐹𝑘𝐹𝑘𝐹𝑘1)(1110)=(𝐹𝑘+1+𝐹𝑘𝐹𝑘+𝐹𝑘1𝐹𝑘+1𝐹𝑘)=(𝐹𝑘+2𝐹𝑘+1𝐹𝑘+1𝐹𝑘)

よって,𝑛=𝑘が成り立つとき,𝑛=𝑘+1 のときも成り立つことがわかった. したがって,数学的帰納法により,

𝑀𝑛=(𝐹𝑛+1𝐹𝑛𝐹𝑛𝐹𝑛1)

が成り立つことが示せた.

 ここで,この等式の両辺の行列式を計算すると,

左辺=det(𝑀𝑛)=(det𝑀)𝑛=(det(1110))𝑛=(1)𝑛右辺=det(𝐹𝑛+1𝐹𝑛𝐹𝑛𝐹𝑛1)=𝐹𝑛+1𝐹𝑛1𝐹2𝑛

以上により,カッシーニの恒等式 𝐹𝑛+1𝐹𝑛1𝐹2𝑛=(1)𝑛 が示せた.