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有理数の切断と実数(定義1.0,定義1.1)

定義1.0 (有理数の切断)

 有理直線Q\mathbb{Q}をつぎの2つの条件を満たすように空集合でない2つの部分集合AAAA^{\prime}に分割したとき,AAAA^{\prime}の組を有理数の切断とよび,A,A\langle A,A^{\prime} \rangleで表わす.

  1. rAr \in Aのとき,sAs \in A^{ \prime }ならば,r<sr < s.
    1.の図的表現
    1.の図的表現
  2. AAに属する最大の有理数はない.すなわち,rAr \in Aならば,t>rt>rなる有理数tAt \in Aが存在する.
    2.の図的表現
    2.の図的表現

定義1.1(実数)

 有理数の切断を実数とよぶ.

有理数の切断の主張

 有理数を適当に2つに分けた集合の組が有理数の切断と言っているのではない. 有理数の大小関係を考慮し,一直線上に並べた有理直線を2つに分けたときの, 有理数の無限集合の組を有理数の切断とよぶと主張している.

 ただ,これだと数学的にあいまいなので,この2つに分けた有理数の無限集合の組A,A\langle A, A^{\prime} \rangleは定義の1.,2.を満たすものとする.

 有理数を分割したので,Q=AA, AA=\mathbb{Q} = A \cup A^{\prime}, \space A \cap A^{\prime} = \emptyset である.また,切断A,A\langle A, A^{\prime} \rangleにおいて,AAの補集合がAA^{\prime}なので,AAを決めれば切断A,A\langle A, A^{\prime} \rangleが決まることを意味する.

実数の主張

 有理数とは異なる概念であることを主張している. 有理数の無限集合の組A,A\langle A, A^{\prime} \rangleを実数と考えるため,とても数とはみなせない. しかしこの先,実数の性質をみていくと数とみなしてもよいということになる.

実数の等号

 2つの実数α,β\alpha, \betaが等しい:α=β\alpha = \betaというのは,切断A,AB,B\langle A, A^{\prime} \rangle \text{と} \langle B, B^{\prime} \rangleが同じであること,すなわち,A=BA = Bであることを意味する.

1.と同値な条件

 有理数の切断の条件1.と同値な条件がある.

  • 3.  rA\space r \in Aに対して,sr,sQs \le r, s \in \mathbb{Q}ならば,sAs \in A
  • 3’.  rA\space r \in A^{\prime}に対して,rs,sQ r \le s, s \in \mathbb{Q}ならば,sAs \in A^{\prime}

 これら条件は,補集合の関係にある2つの有理数の集合AAA,A'に分けたのなら,片方が切断の条件を満たせば, もう片方も自動的に条件を満たすから,片方だけ調べればよいということ.

3.の主張

 切断A,A\langle A,A^{\prime} \rangleAAの性質について述べている. すなわち,どんなrAr \in Aに対しても,s<rs < rである有理数ssAAに属する.

 逆に考えると,AAの性質はsrs \le rAAに属さない有理数ssは存在しないということ. 言い換えると,AAの中にAA'の元が混ざっていないということ. つまり,以下の図のような切断はない.

3.の図的表現
3.の図的表現

3’.の主張

 3.の主張をAA^{\prime}側で考えればよい. すなわち,どんなrAr \in A^{\prime}に対しても,rsr \le sである有理数ssAA^{\prime}に属する.

 こちらも逆に考えると,AA^{\prime}の性質はrsr \le sAA^{\prime}に属さない有理数ssは存在しないということ. 言い換えれば,AA'の中にAAの元が混ざっていないということ. つまり,以下の図のような切断はない.

3'.の図的表現
3'.の図的表現

無理数

 有理数の切断によって,無数の有理数の集合の組A,AA, A'に分けた.定義によりAAに最大の有理数はない. AA'に最小の有理数が存在しないような組がある.そのとき,この有理数の切断は無理数であると定義する.

 AA'に最小の有理数が存在するような組は,有理数である.