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任意の実数はその値で有理数直線を切断できる(定理1.3)

定理1.3

 任意の実数𝛼=𝐴,𝐴について

𝐴={𝑟|𝑟<𝛼}𝐴={𝑟|𝑟𝛼}

 我々は実数に馴染みがあるので,当たり前のように思う.しかし,これの証明は案外わかりづらかった.

 定義1.1において,我々は有理数の切断を実数とよぶことにした. すなわち,有理数直線をある点で2つの有理数の集合𝐴,𝐴に分け,その組を実数と呼んだ. これはつまり,2つに分けた有理数の集合𝐴,𝐴はある基準点があって,無数の有理数を基準点との大小比較によって分けられるのである.

 この定理はこの逆を主張している. つまり実数を1つ選んだとき,その実数を構成する2つの有理数の集合はどのようなものなのか, どの基準点から大小比較すればいいのかということ. 具体的には,実数𝛼と大小比較して(𝑟<𝛼𝑟𝛼)よいということ.

 この定理によって,実数というものは有理数直線を2つに分割できる点(境目)とみなすことができる. つまり,有理数直線上の有理数の間に実数があるようにみることができる.

 いやらしいのは,有理数と実数の比較をしていること.ここまでの実数論の話の中で, 直接的に有理数と実数を比較できるとは言っていない.有理数を実数とみなし,比較するしかない.

 𝐴,𝐴が有理数の切断として機能することを示したい.つまり,任意の有理数𝑟に対し, rは𝐴もしくは𝐴のどちらかに必ず属することを示したい.

 背理法で示す.つまり,𝐴,𝐴のどちらにも属さないある有理数𝑟が存在したと仮定し,矛盾を導く. 𝑟は有理数なので,𝑟=𝑅,𝑅𝑅={𝑠|𝑠𝑟}𝑅={𝑠|𝑟𝑠} のように有理数の切断で表せる. このとき,𝑟𝑅により,

𝐴𝑅

である.

 𝑠𝑅をとると𝑟𝑠なので,𝛼𝑟𝑠.つまり,𝛼𝑠. よって,𝑠𝐴.したがって,𝑅𝐴.これは(1)に矛盾する.

 以上から,どんな有理数も𝐴,𝐴のどちらかに必ず属する. よって,実数𝛼を構成する2つの有理数𝐴,𝐴は,定理で示した表現でよい.