定義(加法)
有理数の任意の2つの集合S,Tが与えられたとき,s∈S,t∈Tの和s+t全体の集合をS+Tで表わす:
S+T={s+t ∣ s∈S,t∈T}.また同様に
S+t={s+t ∣ s∈S}などと書く.
補題1.1
a,bが有理数のとき,r<a+bなる有理数rに対してr=s+t,s<a,t<bなる有理数s,tが存在する.
定義1.3
2つの実数α=⟨A,A′⟩,β=⟨B,B′⟩が任意に与えられたとき,αとβの和を
α+β=σ, σ=⟨S,S′⟩, S=A+Bと定義する.
定義の主張
有理数の2つの集合における加法を定義している.まだここでは有理数の切断の加法について言及していない.
補題1.1の主張
定義1.3を主張する上で必要.主張内容は上のとおり素直に受け取ればよい.
補題1.1の証明の考え方
有理数の存在を証明するので,仮定のa,b,rを使って,条件を満たす有理数s,tを構成できることを示せばいい.
有理数s,tを以下のとおりに定義する.
st=a−2(a+b−r)=b−2(a+b−r)
このとき,s+t=rであり,r<a+bから2(a+b−r)>0からs>aおよびr>bがわかる.
したがって,a,b,rからs,tを構成できたので,補題1.1は成立する.
定義1.3の主張
Sはs+t(s∈A,t∈B)の全体である.r<α+βを満たす有理数rの全体などと言っていない.r<α+βで理論が構築されていれば,わかりやすいのに.
⟨S,S′⟩は有理数の切断である.
σ=⟨S,S′⟩と定義したが,⟨S,S′⟩が有理数の切断かどうかはまだ示されていない.
-
S,S′が空集合でないこと.
まず,S,S′が空集合でないことを示す.
S=A+Bは空集合ではない.なぜなら,A,Bは有理数の切断において空集合ではないので,ある有理数a∈A,b∈Bが存在し,a+b∈Sとなり,Sに元が存在する.
S′はSの補集合と定義される.これだけではS′が空集合かどうかは不明である.しかし,S′は空集合でない.
なぜならば,任意のr∈A,s∈Bにおいてr+s<u+vを満たすu∈A′,v∈B′が取れる.すなわち,Sに含まれない有理数u+vが存在するということ.つまり,S′は空集合でないということ.
-
有理数の切断の条件3を満たすこと.
任意でa+b∈S(a∈A,b∈B)を取る.補題1.1よりr=s+t<a+bを満たすs∈A,t∈Bがある.これはr=s+t∈Sを意味し,r<a+bである有理数rはr∈Sということ.すなわち,有理数の切断の条件3を満たす.
-
Sに属する最大の有理数はない.
A,Bに最大の有理数がないので,A+Bにも最大の有理数はない.したがって,S=A+Bにも最大の有理数はない.
以上により,⟨S,S′⟩は有理数の切断であることが示せた.