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実数の加法の定義.(P18,補題1.1)

定義(加法)

 有理数の任意の2つの集合S,TS, Tが与えられたとき,sS,tTs \in S, t \in Tの和s+ts + t全体の集合をS+TS + Tで表わす:

S+T={s+t  sS,tT}.S + T = \{ s + t \space | \space s \in S, t \in T \}.

また同様に

S+t={s+t  sS}S + t = \{ s + t \space | \space s \in S \}

などと書く.

補題1.1

 a,ba, bが有理数のとき,r<a+br < a + bなる有理数rrに対してr=s+t,s<a,t<br = s + t, s < a, t < bなる有理数s,ts, tが存在する.

定義1.3

 2つの実数α=A,A,β=B,B\alpha = \langle A, A^{\prime} \rangle, \beta = \langle B, B^{\prime} \rangleが任意に与えられたとき,αβ\alpha \text{と} \betaの和を

α+β=σ, σ=S,S, S=A+B\alpha + \beta = \sigma, \space \sigma = \langle S, S^{\prime} \rangle, \space S = A + B

と定義する.

定義の主張

 有理数の2つの集合における加法を定義している.まだここでは有理数の切断の加法について言及していない.

補題1.1の主張

 定義1.3を主張する上で必要.主張内容は上のとおり素直に受け取ればよい.

補題1.1の証明の考え方

 有理数の存在を証明するので,仮定のa,b,ra, b, rを使って,条件を満たす有理数s,ts, tを構成できることを示せばいい.

 有理数s,ts, tを以下のとおりに定義する.

s=a(a+br)2t=b(a+br)2\begin{aligned} s &= a - \frac{(a+b-r)}{2} \\ t &= b - \frac{(a+b-r)}{2} \end{aligned}

このとき,s+t=rs + t = rであり,r<a+br < a + bから(a+br)2>0\frac{(a+b-r)}{2} > 0からs>as > aおよびr>br > bがわかる.

 したがって,a,b,ra, b, rからs,ts, tを構成できたので,補題1.1は成立する.

定義1.3の主張

 SSs+t(sA,tB)s + t(s \in A, t \in B)の全体である.r<α+βr < \alpha + \betaを満たす有理数rrの全体などと言っていない.r<α+βr < \alpha + \betaで理論が構築されていれば,わかりやすいのに.

S,S\langle S, S^{\prime} \rangleは有理数の切断である.

 σ=S,S\sigma = \langle S, S^{\prime} \rangleと定義したが,S,S\langle S, S^{\prime} \rangle有理数の切断かどうかはまだ示されていない.

  1. S,SS, S^{\prime}が空集合でないこと.

     まず,S,SS, S^{\prime}が空集合でないことを示す.

     S=A+BS = A + Bは空集合ではない.なぜなら,A,BA, Bは有理数の切断において空集合ではないので,ある有理数aA,bBa \in A, b \in Bが存在し,a+bSa + b \in Sとなり,SSに元が存在する.

     SS^{\prime}SSの補集合と定義される.これだけではSS^{\prime}が空集合かどうかは不明である.しかし,SS^{\prime}は空集合でない

     なぜならば,任意のrA,sBr \in A, s \in Bにおいてr+s<u+vr + s < u + vを満たすuA,vBu \in A^{\prime}, v \in B^{\prime}が取れる.すなわち,SSに含まれない有理数u+vu + vが存在するということ.つまり,SS^{\prime}は空集合でないということ.

  2. 有理数の切断の条件3を満たすこと.

     任意でa+bS(aA,bB)a + b \in S ( a \in A, b \in B )を取る.補題1.1よりr=s+t<a+br = s + t < a + bを満たすsA,tBs \in A, t \in Bがある.これはr=s+tSr = s + t \in Sを意味し,r<a+br < a + bである有理数rrrSr \in Sということ.すなわち,有理数の切断の条件3を満たす.

  3. SSに属する最大の有理数はない.

     A,BA, Bに最大の有理数がないので,A+BA + Bにも最大の有理数はない.したがって,S=A+BS = A + Bにも最大の有理数はない.

 以上により,S,S\langle S, S^{\prime} \rangleは有理数の切断であることが示せた.