高校数学「場合の数」の基本は、「もれなく・重複なく」数える法則と視点である.
「場合の数」という単元は、高校数学Aで学ぶ重要な分野である。単に公式( や )に数字を当てはめるのではなく、どのような構造で数え上げが行われているのかを論理的に理解することが、この単元の最大の目的である。確率の基礎となるだけでなく、アルゴリズムの構築など論理的思考力を養う上でも必須の知識である。
場合の数の大原則は「もれなく、重複なく」
Section titled “場合の数の大原則は「もれなく、重複なく」”場合の数のすべての理論や公式は、「いかにして漏れやダブりを防ぐか」という目的のために存在する。
素朴に数え上げる場合、最も確実な方法は「樹形図」を描くことや「辞書式配列」で整理することである。これにより、視覚的かつ規則的にすべての場合を列挙し、「もれなく・重複なく」を体現できる。
樹形図の例:「1, 2」の数字を使ってできる、百の位が1の3桁の整数を列挙する樹形図は以下のようになる。
辞書式配列の例:「A, B, C」の3文字をすべて使ってできる文字列をアルファベット順に並べる方法である。
- ABC
- ACB
- BAC
- BCA
- CAB
- CBA
一見異なる方法に見えるが、実は「樹形図」と「辞書式配列」は表現方法が違うだけで、本質的に全く同じ構造(やっていることは同じ)である。辞書式配列の最初の要素から順に共通部分をまとめて枝分かれの形に描いたものが樹形図であり、どちらも「もれなく・重複なく」順を追って分岐をたどるという同じ作業を行っているに過ぎない。
このように規則に従って並べることで漏れや重複を確実に防ぐことができるが、条件が複雑になったり数が大きくなったりすると、すべてを書き出すのは不可能になる。そこで、この樹形図(辞書式配列)の分岐の構造を数式(計算)に落とし込む必要が出てくる。
数え上げの基礎となる2つの法則
Section titled “数え上げの基礎となる2つの法則”計算によって場合の数を求めるための基礎となるのが、「和の法則」と「積の法則」である。
和の法則は、同時には起こらない(排反である)事象の総数を数える法則である。これは樹形図において、「異なるパターンの枝の数を単純に足し合わせる」ことに相当する。複雑な問題を解く際、互いに被らないいくつかのケースに「場合分け」して考えることが定石であるが、その根拠となるのがこの和の法則である。
積の法則は、連続して起こる事象や独立した事象の組み合わせを数える法則である。ある事柄 が 通りあり、そのそれぞれに対して事柄 が 通りあるとき、総数は 通りとなる。これは樹形図において「どの枝からも同じ数だけ次の枝が伸びている」対称的な構造を、掛け算によって劇的に省略したものである。順列()の計算も、本質的にはこの積の法則を連続して適用しているに過ぎない。
- 例題(和の法則)
大小2つのサイコロを同時に投げるとき、出る目の和が「3または10」になる場合は何通りあるか。
目の和が3になる場合は と の2通りである。目の和が10になる場合は 、、 の3通りである。この2つの事象は同時には起こらないため、和の法則を適用して 通りとなる。
- 「同時に起こらない(排反)」とは?
「同時に起こらない(排反である)」とは、2つの条件を満たす共通部分(被り)が絶対に存在しないことを意味する。例えば、出た目の和が「3でもあり、同時に10でもある」ことは絶対にありえない。このように被りがないからこそ、それぞれのパターン数を単純に足し算するだけで正しい総数が求められる(和の法則)。
逆に、「目の和が偶数になる」または「ゾロ目になる」のように、「2と2が出る」といった両方を同時に満たす被り(ダブルカウント)が存在する場合は、単純な足し算では正しい数が求められない(後述の「包除原理」の考え方が必要となる)。
- 例題(積の法則)
大小2つのサイコロを同時に投げるとき、大のサイコロの目が奇数で、かつ小のサイコロの目が5以上になる場合は何通りあるか。
大のサイコロの目が奇数になるのは の3通りあり、そのそれぞれに対して、小のサイコロの目が5以上になるのは の2通りある。これを樹形図で描くと、大のサイコロの各枝の先から小のサイコロの枝が2本ずつ分岐する形になるため、積の法則により 通りとなる。
「重複度で割る」という強力な視点
Section titled “「重複度で割る」という強力な視点”公式として暗記されがちな組合せ()や円順列の根本にあるのは、「あえて区別して大きく数え、後から重複度(ダブり)で割る」という考え方である。
例えば、異なる 個のものから 個を選ぶ組合せの計算では、まず順番を気にして一列に並べる(順列 を計算する)。その後、選ばれた 個の内部での並び方である 通りは、組合せとしては「同じもの(重複)」とみなせるため、 で割ることで正しい総数を導き出す。
- 例題(重複度で割る)
A, B, C, Dの4人の中から、2人の代表を選ぶ選び方は何通りあるか。
まず、選ぶ「順番」を気にして(区別して)、1人目と2人目を順番に選ぶ方法を考える。これは積の法則により 通りとなる。
しかし、単なる「代表2人」を選ぶ場合、「Aを選んでからBを選ぶ(A, B)」と「Bを選んでからAを選ぶ(B, A)」は、結果として同じペアである。どのペアを選んでも、内部での並び方である 通りずつの重複(ダブり)が必ず発生している。
したがって、あえて大きく数えた 通りを、この重複度の で割ることで、 通りとなる。 これを樹形図で全て書き出し、重複する(すでに数えられた)ペアに取消線を引くと以下のようになる。12通り中、半分の6通りが重複(ダブり)であることが視覚的にも確認できる。
円順列や「同じものを含む順列」も全く同じ原理である。直接数えるのが難しい対象に対して、「数えやすい形で全体を大きく数え上げ、規則的な対称性を利用して割り算を行う」というプロセスが、場合の数における最大の山場であり、基本となる強力な視点である。
場合の数の問題を解くための一般的な手順
Section titled “場合の数の問題を解くための一般的な手順”ここまで解説した「和の法則」「積の法則」「重複度で割る」という視点を踏まえ、実際の場合の数の問題に立ち向かう際の基本的な手順は以下のようになる。
-
具体的に書き出して実験する(構造の把握)
最初から公式( や )に当てはめようとするのではなく、まずは条件を満たすパターンをいくつか「樹形図」や「辞書式配列」で手作業で書き出してみる。この「実験」によって、問題の構造(対称性や偏り)を正確に把握する。
-
互いに被らないケースに分割する(和の法則)
問題が複雑な場合は、条件を「同時には起こらない(排反な)」いくつかのシンプルなケースに場合分けする。場合分けしたそれぞれの結果は、後で足し合わせればよい(和の法則)。
-
対称性を利用して計算する(積の法則)
分割した各ケースについて、樹形図の枝分かれが均等(規則的)であれば、「積の法則」を用いて掛け算で一気に数え上げる。順列()などの計算式はここで初めて使用する。
-
数えすぎ(ダブり)がないか確認する(重複度で割る)
計算結果に対して、「実は同じ結果になるものを、別々のものとして数えすぎていないか?」を最後に必ずチェックする。区別しなくてよいものまで区別してしまった場合は、その内部の並び方(重複度)で割り算を行って補正する(組合せ などの考え方)。
どのような難問であっても、本質的にはこの4ステップの繰り返しに帰着される。順列()や組合せ()などの公式はあくまで「手順3」や「手順4」の計算を省略するための道具に過ぎず、最も重要なのは「手順1」と「手順2」の地道で論理的な分析である。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”- Q. 「この問題はPを使うの?Cを使うの?」といつも迷ってしまいます。
場合の数の勉強を始めると、問題文を見てすぐに「 と のどちらを使うか」を考えようとしてしまいがちである。しかし、これは根本的にアプローチが間違っている。
「」や「」といった公式は、あくまで計算をサボる(省略する)ための道具に過ぎない。迷ったときは、まず自分の手で具体的なパターンをいくつか書き出してみる(手順1)。その上で、「これは順番を気にして選んでいるし、枝分かれが均等だから で一気に計算できるな(手順3)」とか、「これは順番はどうでもいい(同じペアができる)から、後から のようにダブり分で割らなきゃな(手順4)」というように、問題の構造を分析した結果として後から公式を引き出すのが正しいアプローチである。公式ありきで考えるのをやめるだけで、場合の数の本質が見えてくる。
場合の数の基本については以下の通りである。
- 大原則は「もれなく、重複なく」数えることである。
- 樹形図による列挙を計算に落とし込んだものが「和の法則」と「積の法則」である。
- 順列()の計算は、積の法則の応用に他ならない。
- 組合せ()や円順列の基本は、区別して大きく数えた後に「重複度(対称性)で割る」ことである。
他の記事を探す

